「ないです。何もないです」

山口真吾さんというボクサーがいました。

山口さんは元OPBF東洋太平洋ライトフライ級王者で日本フライ級王者の畠山昌人氏とも対戦しています。

15年ほど前にボクシングマガジンのページをめくっていると山口さんのインタビュー記事が目に入った。

山口さんは当時の日本チャンピオンの横山啓介氏にノンタイトル戦ながら勝利し、世界ランクと世界戦挑戦権を得た。

そして、その次戦でなんと世界タイトルへ挑戦する。

結果は10回TKO負け。

日本タイトル戦から三ヶ月の挑戦でした。

その直後のインタビュー記事だったので、当時のわたしはとても興味深く記事を読んだ。

なぜ、こんな準備期間もないうちに挑戦した選手を取り上げるのだろう。
インタビュアーは何が聞きたいのかなと思いました。

そこにはうさぎとかめの「かめ」の話が書いてあった。

山口さんは横山氏との試合に勝ったら世界戦が組まれるとは思っていなかったらしい。

世界タイトル戦までこの試合の3ヶ月後だから山口さんの陣営も世界戦での「勝つ」ための戦略はなかったのかもしれない。

しかし、自身が目標とするものがあってボクシングにひたすらに向き合い、ノンタイトル戦ながら日本チャンピオンに勝つという結果を出した。

それを一番近くで見ていたジム会長が世界戦を準備した。

山口さんは外発的動機では動かない人だったんだろう。

ボクシングをしているのも「世界チャンピオンになってチヤホヤされる」「お金がもらえるから闘う」というものでなく、「ボクシングを通してどんな人間になるか」というある種、哲学的な動機で戦っていたのではないかと思う。

雑誌のインタビュアーが世界戦を終えた山口さんに

「今回の試合で失ったものは何かありますか」と聞いた。

山口さんは驚いた顔で「え。ないです。何もないです」と言った。

ないんだ。
ないんだよ、失うものなんて。

誰かと速さを比べたり、量を比べたりしているといつかきっと自分を見失ってしまうときがやってくる。

うさぎとかめはゴールがおれたちに見えやすい形で描かれていたからわかりやすいと思えた話だけど、うさぎもかめも本来、ゴールは別のはずだ。

うさぎはかめ以外にも負かしてきた動物がたくさんいるかもしれない。

でもかめは自分にしか見えないゴールに向かっていたから、最後までやり抜くことができた。
山口さんはかめだ。
誰も山口さんのような自分と戦い続ける人を負かすことはできないだろう。

そして人と比べないで自分だけのゴールに向かって生きている人には必ず、誰か背中を押してくれたり、次の場所へ引き上げてくれる人が現れる。
その人はわかりやすく、その誰かにお金をくれたり、仕事をくれたりするんじゃない。
自分は間違ってなかったって確信を与えてくれる。
それはとても力強いもので、自分は一人じゃないって気づかせてくれて仲間が誰なのかという人を見る目も与えてくれる。

だから何をどうしたいのか、自分の心に聞いてみよう。
自分の心に聞いて、自分が正しいと思うことをするんだ。

 

おれはそういう真摯さが目に映る人が好きで写真を撮っています。

そして四角さんの写真を撮った時におれはこれで良かったんだな〜と思いました。

おれが撮りたくてずっと撮っていた自分の生き方への自信が現れている人だから。

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